今年2007年は澁澤龍彦(1928-1987)の没後20周年。
それを記念して、埼玉県立近代美術館にて『澁澤龍彦 幻想美術館展』が開催されました。
この展覧会こそが、今回の東京遠征の一番の目的でした。
学生時代よりフランス文学に熱中していた澁澤龍彦。
シュルレアリスムの創始者でありフランスの詩人・文学者のアンドレ・ブルトンの著書、
『黒いユーモア選集』を手にしたことが運命的な出会いでした。
この選集にはピカソ、デュシャン、ダリ等のシュルレアリスム系の美術家達の文章が収録されており、
おそらく澁澤氏の美術への関心は、シュルレアリスムへの耽溺と並行したものであるようです。
26歳でフランス文学者としてデビューし、『黒いユーモア選集』でも紹介されていた
マルキ・ド・サド(サディズムの語源となったフランスの作家)の研究者として名を馳せ、
いつしか独自の美術評論も発表するようになります。
その評論は美術史的な序列や価値を全て無視し、いつも自分の好きな対象だけを取り上げました。
何故その対象を好むのかを問い続け、知識と経験の裏付けを持った客観性を保ちながら展開され、
特殊なようでいて実は多くの人に通じているような気質や性向へと話を広げてゆきます。
これによって読者の共感・共有を誘い、一度読んでみると分かると思いますが、
澁澤氏の文章にはどこか小粋な雰囲気があって、読み始めるとどんどん引き込まれてゆきます。
そこには通念にとらわれない、新しい美術の見方がありました。
自分の目で未知の作品を発見し、称え、紹介し続けた澁澤龍彦。
その目はなにも西洋ばかりでなく、日本にも確かに向けられ、多くの芸術家に影響を与えました。
この展覧会ではそんな彼が生涯にわたって愛した美術作品や美術家との関わり、
作品ではないが好んで書斎名に飾ったものなど、明快に紹介されています。
細密画、博物誌、オブジェ的嗜好、エロティシズム。
玩具、自動人形、怪物、庭園、天使、両性具有、錬金術、地獄、終末図。
こんな単語にピンときたら、きっと気に入るはずの内容です。
集められた作品もかなり豪華な顔ぶれ。
出口付近に、生前の澁澤氏が愛用していた眼鏡、パイプ、原稿用紙が置かれていました。
癌によって声帯を失った後も作家としての仕事を続け、
病床での読書中に人生の幕を閉じた澁澤氏。
これは見た瞬間、グッと込み上げるものがありました。
もしシュルレアリスムに興味があれば、富山県立近代美術館に足を運ぶのもよいです。
澁澤龍彦とも交友のあった詩人・美術評論家でありシュルレアリストでもあった瀧口修造。
彼が富山県出身であることもあって、富山近代美術館には、
シュルレアリスムの系譜の作品を常設展で見ることが出来ます。
富山県にしてはなかなか貴重なスポットです。
>>『澁澤龍彦 幻想美術館展』
会期:2007年4月7日(土)~2007年5月20日(日)
会場:埼玉県立近代美術館
住所:埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
時間:10:00~17:30 月曜休館
入場料:一般 900円 高・大学生 720円 (中学生以下・65歳以上・障害者手帳保有者は無料)
>2007年8月10日~2007年9月30日 札幌芸術の森美術館
>2007年10月6日~2007年11月11日 横須賀美術館